住民投票条例案に対する市長の反対意見
                            住民投票条例案の附帯意見より

 彦根市が豊郷町、甲良町、多賀町と合併することについて市民の意志を問う住民投票条例の制定請求についての意見書

 本条例案は「彦根市が豊郷町、甲良町、多賀町と合併しようとする場合、その合併の是非について市民の意思を確認すること」を目的とし、その目的を達成するために住民投票を行う旨を定め、各条文において住民投票の執行等に必要な基本的事項を規定しているものです。

 今日、社会経済情勢が一段と厳しさを増す中、地方分権が実行段階を迎え、住民に身近な行政サービスを総合的に提供する市町村の役割がますます重要なものとなっています。また、将来を展望して行政サービスの維持・向上に取り組んでいくことが求められており、その基盤をより強固なものにしていくために、行政規模の拡大やその効率化を図る視点が必要となっています。

 このような状況の中、合併を検討する際の枠組みとしてもっとも基盤となる本市と犬上郡3町に加え、米原町および愛知郡にも参加を呼びかけながら、地方分権時代における地方自治体のあり方や本市と近隣市町合併のあり方等について平成13年5月以来、調査・研究・協議を行ってきました。併せて市民のみなさまには、こうした経過や内容を適時お示しし、合併する場合の枠組みのあり方や将来を展望したまちづくりの観点からご意見をお聞きするなど、各種の会合を通して意見交換を行って参りました。こうした一連の経緯を経て、社会経済情勢の変化に的確に対応できる行政体制の整備を図るため、本市と豊郷町、甲良町、多賀町の1市3町は、昨年7月に各市町の議決を得て、同年8月に法定の合併協議会を設置いたしました。この協議会は、行政関係者、議会関係者、また公募で選ばれた住民の方など合計41人で構成しており、現在、合併協議にかかる協定項目等について協議、確認を進めているところです。

 一方、合併協議会に設置した「新市将来構想策定委員会」では、「新市将来構想案」の取りまとめに向け、1市3町の2万人の住民を対象とした「新市のまちづくりに関する住民意向調査」を実施するなど、地域の課題を明らかにしながら合併した場合のまちづくりの理念や方向性等について検討を重ねていただいています。
 条例制定請求書の趣旨の要旨に「合併協議会は合併を前提とした協議ばかりを行い、合併の是非について真剣に討議した形跡が認められない。」とありますが、合併協議会とは「合併するとしたらこのようにする」といったことを確認し、住民が合併の是非について意思形成を図るための材料を提供し、その上で首長や議会が最終判断するものです。合併の是非は、市町村の合併に関する法律(以下「合併特例法」という。)に定める新市建設計画や合併する場合の諸条件を明らかにしてから議論する必要があり、現在、そのための協議を行っているのであり、順序として何ら誤りはないと考えています。

 請求書全体の文意からは、米原町や長浜市と同様に合併協議会設置前に住民投票により、市民一人一人の意思を確認するよう求めていると推察されます。しかし、両市町においての住民投票は合併に係わる市町の範囲、いわゆる合併の枠組みが複数ある中、そのうちどの枠組みを選択するのかに主眼がおかれたものであり、この意味で本市と両市町の置かれている状況に違いがあります。また、合併協議会設置の発議は、首長によるもの、議会によるものおよび住民発議によるものがありますが、住民発議制度は従来の行政のイニシアティブだけでなく住民等にイニシアティブにより合併協議会設置ができるよう設けられたものです。しかしながら本市では、このような住民発議はなかったところであります。こうした状況下において、本市では、15回に及ぶ「市町合併に係わる座談会」やシンポジウム、自治会長会議等を開催し、市民の皆様と忌憚のない意見交換等を行い、市議会の議決を得て合併協議会を設置したものであります。このように民意をふまえつつ様々な手順を経て今日を迎えており、改めて合併協議会の設置および合併に関する協議を行うことについて、住民投票によって市民の皆様の意思を確認する必要はないと考えています。

 さて、合併の是非の判断につきましては、地方自治法および合併特例法に基づき、合併関係市町による合併協議会の協議結果をふまえ、代表民主制の基本原則のもと、議会が最終決定することとされています。この過程において、関係市町の連携はもとより住民の皆様の積極的な参加のもとに協議を進め、市長、議会ともに住民意向を十分ふまえて判断することが最も重要であると考えています。

 現時点では、合併協議会において具体的な協議を進めているところであり、市民の皆様の意向を把握する際に必要な情報を提供することができない段階にあります。今後合併協議会において、市の名称はもちろん合併後の市民サービスや負担などここの事項の論議を積み重ね、確認した事項を適時・適切に情報提供する中で、1市3町の合併に関して市民の皆様が全体的、総合的にお考えいただき、最終的に合併の是非について判断していただくことが必要であると考えております。

 次に住民投票についてですが、住民投票そのものを否定するものではありません。一般論として住民投票は、ここの重要な政策に関して住民の意思を直接反映できるなどの長所が挙げられています。しかしながら、その反面、情緒に流され、冷静な判断を求めるのにはなじまないという意見や社会・政治運動的な色彩への懸念なども指摘されています。また、イエス・ノーの二者択一になじまない政策も少なくないとの批判があります。

 市町合併は、その是非を判断するための多種多様な論点を含んでおり、これらを総合的に評価して結論を導かなければならないものであります。しかし、本条例案における住民投票は、単に、合併の賛否のみを市民に問うものであり、その結論に至るまでの様々な論点を浮き彫りにすることが難しく、複雑多岐にわたる市民意識を十分反映したものとならないと考えられます。
  このようなことから、住民投票という方法ではなく、住民説明会等を通じて市民との対話を図りながら様々な市民意識を把握し、それらを合併協議会に反映することにより、市民の皆様に真に理解、納得していただける市町合併を目指していきたいと考えています。そして、合併協議会の主要な協議事項であります「新市建設計画の策定」および「合併協定項目の確認」を終え住民の皆様に判断材料を提供することが可能となった時点で、単に合併の賛否のみならず、その背景となる事項をも含んだいわゆるアンケート方式による住民意向調査を実施することが適切と考えており、その時期につきましては平成16年2月を予定しているところです。

 以上のように、請求の要旨において、合併協議会の趣旨や本市と近隣自治体の状況認識等に誤解があると見られること、住民投票には課題や問題が数多くあり、合併の賛否のみについての投票は決して民意を十分反映した合理的な結果にならないことから、本条例案について、これを制定することは適当でないと考えるものであります。

 平成15年3月20日 彦根市長 中島一